イタリア・バーリ歌劇場
《イル・トロヴァトーレ》
三角関係、呪い、出生の秘密、復讐。それらが複雑にからみあう《イル・トロヴァトーレ》は、悲劇的な結末へと息もつかせず突き進むが、その間、メロディが洪水のようにあふれ出る。心を打つメロディがこうも詰まったオペラは、ヴェルディの作品でほかに例がない。美しいメロディと輝かしい声でドラマを深掘りするヴェルディの実験だったといえる。
だから上演の質はキャスティング次第だが、国立バーリ歌劇場のキャストは、いま考えうる世界最高の布陣だ。装飾も交えた細やかな表現が欠かせないレオノーラにはフリットリ。私はスカラ座で彼女のレオノーラを聴いて忘我の境地に誘われて以来、ふたたび聴ける日を待ち望んでいた。マンリーコには、力強く輝かしい声とヴェルディが求める奥深い表現を併せもつメーリを超える歌手を思いつかない。そしてエレガントな歌唱に力強さが加わったガザーレ、圧巻の響きのニコリッチ、ベルカントのツボを押さえたビサンティの指揮。「あのバーリの」と語り草になるに違いない。
オペラ評論家 香原斗志
キャスト/指揮
公演 ・チケット情報
イタリア政府、プーリア州、バーリ市の支援により豪華キャスト、本格イタリア・オペラを特別料金で!
イタリア・バーリ歌劇場
バーリは、南イタリア、プーリア州の州都で、長靴の形をしたイタリア半島のかかとにあたる部分に位置する港町である。アドリア海に面し、交通の要衛として、古代ギリシャ時代から発展した。ロマネスクやビザンチンの美しい教会建築が残る雰囲気満点の旧市街と、海辺の明るさが同居した魅力的な街だ。
バーリ歌劇場は、劇場建築としても公演の水準においても、イタリアを代表する歌劇場のひとつである(国内に13ある、国の支援を受ける公的な劇場のひとつ)。開場は1903年。商人で船主のペトルッツェリ兄弟が計画、出資したので「ペトルッツェッリ劇場」と呼ばれる。赤の壁紙や椅子に白い壁、凝った金のレリーフやフレスコ画で飾られた美しい劇場には、5層の桟敷席がダイナミックな弧を描いて重なる。1991年に火災で大半が損傷したが、17年にわたる修復を経て建築当初の姿を取り戻し、2009年、ベートーヴェンの《第9》で再開場した。
シーズンの開幕は9月。シーズン中に7-8作のオペラが上演され、欧米の第一線で活躍する歌手や指揮者が招聘されている。
(音楽評論家 加藤浩子)
●イタリア政府が認定する一流オペラ座のひとつ
オペラ大国イタリアには全国に数百の劇場があるが、その中で政府が直接出資する財団が運営する劇場は13に限られる。ミラノ・スカラ座を筆頭に北からトリエステ、ヴェネツィア、ヴェローナ、トリノ、ジェノヴァ、ボローニャ、フィレンツェ、ローマ、ナポリ、バーリ、カリアリ、パレルモの各劇場である。