イタリア・バーリ歌劇場
「イル・トロヴァトーレ」

語り草になるに違いない世界最高キャストの
《イル・トロヴァトーレ》

三角関係、呪い、出生の秘密、復讐。それらが複雑にからみあう《イル・トロヴァトーレ》は、悲劇的な結末へと息もつかせず突き進むが、その間、メロディが洪水のようにあふれ出る。心を打つメロディがこうも詰まったオペラは、ヴェルディの作品でほかに例がない。美しいメロディと輝かしい声でドラマを深掘りするヴェルディの実験だったといえる。

だから上演の質はキャスティング次第だが、国立バーリ歌劇場のキャストは、いま考えうる世界最高の布陣だ。装飾も交えた細やかな表現が欠かせないレオノーラにはフリットリ。私はスカラ座で彼女のレオノーラを聴いて忘我の境地に誘われて以来、ふたたび聴ける日を待ち望んでいた。マンリーコには、力強く輝かしい声とヴェルディが求める奥深い表現を併せもつメーリを超える歌手を思いつかない。そしてエレガントな歌唱に力強さが加わったガザーレ、圧巻の響きのニコリッチ、ベルカントのツボを押さえたビサンティの指揮。「あのバーリの」と語り草になるに違いない。

オペラ評論家 香原斗志